リチウムイオン電池の正極

コバルト酸リチウム

組成式 LiCoO2 で表わされる化合物である。 リチウムイオン二次電池の正極として用いられる。この化合物のインターカレーション型電極としての有用性は1980年、オックスフォード大学のJohn B. Goodenough、水島らにより発見された[1]。

[1]K. Mizushima, P.C. Jones, P.J. Wiseman, J.B. Goodenough (1980年). “LixCoO2 (0<x<l): A NEW CATHODE MATERIAL FOR BATTERIES OF HIGH ENERGY DENSITY”. Materials Research Bulletin 15: 783–789. doi:10.1016/0025-5408(80)90012-4.
理論容量は274 mAh/gであるが、LiCoO2のすべてのリチウムを利用する(274 mAh/g)と層状岩塩型構造が壊れてしまう。そのため、約半分のリチウムが利用され、137 mAh/g程度が実容量である。

このときの電圧が約4.2 Vであるが、Al2O3をコートするなどして、耐電圧を向上したLiCoO2が商用化されており、137 mAh/gを超える容量を利用できる。
ビデオカメラや携帯電話用途など、初期のリチウムイオン電池から使用されてきた。これは、サイクル特性、熱安定性(熱暴走は除く)、取り扱いのしやすさなどに起因する。しかしながら、コバルトは高価なレアメタルであり、コンゴなど限られた地域でしか採掘できず、子供を使った搾取などが問題となっている。

 

Source: London Metal Exchange, Nautre "Ten years left to redesign lithium-ion batteries"


きちんと採掘(子供を酷使していないなど)した材料しか使用しないというポリシーを明らかにしているのは、残念ながらBMWだけのようである(2018年8月時点)[2,3]。

[2] Amnesty International. Time to Recharge: Corporate Action and Inaction to Tackle Abuses in the Cobalt Supply Chain (Amnesty International, 2017).
[3] https://www.nature.com/articles/d41586-018-05752-3

マンガン酸リチウム

マンガン酸リチウムLiMn2O4は、コバルト酸リチウムが持つ層状の結晶構造とは異なり、スピネル型構造と呼ばれる3次元的に空孔を含む構造を持っている。熱安定性はコバルト酸リチウムよりも高く、350℃付近で熱分解が起こります。

コバルトのようなレアメタルを用いておらず、有望であると考えられ、日産自動車/NECはこの正極を自社開発、使用してきた。しかしながら、2018年8月、電池の自社製造をやめ、CATLから電池調達する方針に変えたようである。原因は以下の二つと考えられる。

(1) 容量が大きくない:マンガン酸リチウムの理論容量は148 mAh/g、実用量は120 mAh/g程度である。
(2) サイクル特性がよくない:充放電にともないヤーンテラー歪と呼ばれる結晶構造のひずみが起き、これがサイクル特性があまりよくない原因と言われている。

ニッケル酸リチウム

構造はコバルト酸リチウムと同様に、層状岩塩型である。実容量は180-200 mAh/gと高く、パナソニックが長らく採用し、テスラのEVに搭載されているのも、この正極を使用している。

この正極は、コバルト酸リチウムと比較して、(1)熱安定性が低い、(2) サイクル特性が悪い、(3) アルカリ性のため、電極合剤スラリーを作成するとき、スラリーがゲル化しやすい、などの課題がある。熱安定性を高めるためアルミニウム、サイクル特性を高めるためにコバルトをドープしている

三元系

コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウムのいいとこ取りをするために、混ぜたのが三元系である。一般的なのがCo、Mn、Niを1/3ずつ使用したものであるが、容量を高めるためにNiリッチになる方向である。

オリビン鉄リチウム

LiFePO4で示される材料で、電圧は低いものの、(1)レアメタルを使用していない、(2) 酸素がPO4のポリアニオンとして存在するので、熱安定性が高い、という特徴がある。この材料は、Prof. Goodenoughの指導のもと、Dr. Padhiらによって開発された。

[4] doi: 10.1149/1.1837571J. Electrochem. Soc. 1997 volume 144, issue 4, 1188-1194

開発当初、リチウムイオン伝導率(1次元拡散のため)、電子伝導性が他の正極に比べて数桁低く、実用化できないといわれていた。しかしながら、粒子径を小さくし、リチウムイオンの固体内拡散距離を小さくし、また、粒子表面をコートすることで、電子伝導性をあげ、実用化された。

中国ではこの材料の基本特許が出願されておらず、中国ではこの材料を使用した電池メーカーが多い。ハイスペック向けには向かないが、今後増えるであろう、データセンター向け蓄電池には有望と考えられる。

リチウム過剰正極

Li2 MnO3-LiMO2 系(M=Co、Niなど)であらわされる、固溶体の正極である。Li2MnO3の理論容量は 344mAh/gもの高容量であるが、不活性である。一方、LiMO2 は活性であるが、その理論容量は 280 mAh/g 程度(実際の容量は 150 mAh/g 程度)で 小さい。この両者を固溶体化してその組成をよりLi2MnO3側に近づけ高容量を引き出しつつ、後者の高活性な性質を利用として開発された。

Energy Environ. Sci., 2016,9, 1931-1954

この材料は上述したように、大きな容量を示すが、サイクル特性が課題である。この原因として、酸素もレドックス反応していることが提唱しており、この反応が結晶構造の不安定性さを招いていると考えられる。